スイト君(続1)
スイト君(続1)~金落ち山~
「ただちに、そこから退去してくださーい」
「その山に落ちているお金は、私たち株式会社ヨセヨのものでーす」
「お願いします、拾ったお金はヨセヨに届け出てくださーい。」
3000億円が落ちた山の上空では、3台のヘリコプターが巡回しながら、スピーカででかでかと呼びかけていた。貨物輸送機の爆破と共に3000億円は一つの山に雪がぱらぱらと降るように散らばってしまった。それからすぐさま、株式会社ヨセヨは緊急対策会議を開始し、ヨセヨの社長共々ヘリコプターでその山に駆けつけたのだった。それはマスコミの報道が成されてからから数十分後の事だった。
ヘリコプターで駆けつけた頃は、まだ静かな山林でホントに人がいるのか分からないような状況だった。しかしヘリコプターの騒音とスピーカーからの呼びかけで上空だけはうるさかった。
「社長、ホントに聞こえてるんですかねぇ。うちらの呼びかけは。」ヨセヨの重役タオキは不安そうに社長のカタウラの耳元でそう叫んだ。
「わからん。しかし念には念を押さなければならん。」「とにかく、この山を買い占めておけ。それから山の周り全てを閉鎖するんだ。」
カタウラはお金が落ちた山を見つめながらタオキに大声で指示を出した。山の中にはタケノコを掘りに来たお爺さんやそこについてきた子供達、それに登山客、そして飛行機の爆発で心配になった村人達がすでに山の中に入っていたのだった。
「ただちに、そこから退去してくだーい」上空から聞こえるスピーカー音が聞こえてくる。マスコミの報道に気がつかなかった村人数人は、そのスピーカー音で事情を知ることになったのだ。一万円札をぐちゃぐちゃにしてポケットに入れていた子供達や必死に籠の中に入れていたお爺さんのサネキチは手を休めて空から聞こえてくる声に耳をすませていた。
「返さなきゃなんねぇのかよぉ」「見つからないように逃げようかよぉ」そんな事をサネキチは考えていた。そしてさっきまで真剣に報道していた現場のジトウさんは「こんなことあっていいんだよな、いいんだよな」と言いながら、カメラマンと一緒になって目もくれずリュックの中に、散らかっている一万円札を詰め込んでいた。
その日の夕方頃には株式会社ヨセヨの緊急対策は実行に移されていた。のちにその山は「金落ち山」と呼ばれる事になるのだが、まさにその金落ち山包囲網ができあがったのだった。その山の回りに有刺鉄線を張り巡らし、出口を数カ所設け、そこには株式会社ヨセヨの係りのものが待ちかまえると言うものだった。もう拾ったお金は返さなければならないのだった。暗くなって下りてきたタケノコ堀りのサネキチや子供達もなんでというような顔をしながら渋々係りのものに集めてきたお金を渡し、ヨセヨのお礼として10%(*変動します)の謝礼金を受け取ったのだった。そして現場のジドウさん一同も同じよにして山から下りてきて、その係員の姿に驚いたのだった。
2005年ブログ投稿作品 著/Kenji Aso