スイト君(続3)
スイト君(続3)~出会い~
「おーい、投げるぞ」コウキは、谷底を隔てた向こう側の平地にいるユキカに呼びかけた。
「オッケー」というユキカの遠い声が聞こえると、コウキは縄の先端に棒きれを結んだ縄を思いっきりユキカの方角へ届くように投げた。
「今度もダメかぁ」コウキは再び谷底に落ちた縄をたぐり寄せながらぼやいた。ここからユキカまで40メートルぐらいはある。一歩下を覗けば、めまいがするような渓谷だった。深い深い底では川が小さく流れているのが見える。コウキは再び助走をつけて縄がユキカに届くように思いっきり投げた。コウキは投げた瞬間、今度は届きそうな感触を覚えたのだった。ユキカの頭上方向に棒きれのついた縄が来たとき、ユキカもそれを手でキャッチしようと構えていたのだった。
しかし棒きれはユキカの頭に当たってしまい、ユキカは倒れてしまった。その拍子に棒きれのついた縄も谷底へと落ちてしまった。「大丈夫かぁ?」コウキはユキカに向かって大声で叫んだ。しかし反応がない。ユキカは気絶してしまったのだった。コウキは反応のないユキカが心配でしょうがなかったが、どうすることもできなかった。谷底に落ちた縄を引き上げながら、コウキはいたたまれない気持ちになっていった。縄を引き上げ終わると、さらに何もすることがなくなり、ただ向こう側で倒れているユキカを見守るしかなかった。時々大声で呼びかけながら・・・
コウキが家を出てから、一ヶ月前ぐらい経過しただろうか?テレビのニュースを見ていると、突然臨時ニュースに切り替わった。
「先ほどニュースが入ってきました。株式会社ヨセヨの収益、およそ3000億円を乗せた、ロボットのスイト君が操縦する貨物輸送機がスイト君によってハイジャックされました。株式会社ヨセヨはハイジャックを阻止するため、地上のリモコン操作で飛行を爆破したもようです。山岳地帯におよそ3000億円がばらまかれてしまったというのです。それでは現地のジドウさん、よろしくお願いします。」
「えぇ現場のジドウです、先ほど目撃された方に取材してきましたのでご覧下さい。」
村人Aさん「なんだかでかい飛行機がよぉ、真っ直ぐ飛んでたんだけどもよぉ、今まで見たこともねぇ曲がり方をし始めてよぉ、ヘンだなと思ってしばらく見てたらボカンと爆発してたっけよぉ」
村人Bさん「山を散歩していたら、突然空から一万円札が雪のように降ってきたんです。いったいなんなんだと思いましたよ。」
「ジドウさん、現場の中継できますか?」「ご覧下さい、子供達までお金にまみれて遊んでいます。」「こんな事があって良いんでしょうか?人間に変わって台頭してきたロボットの賛否が問われる事件だと思われます。」「ジトウさん、ありがとうございました。それでは次のニュースです。」
そんなニュースを見ていたコウキもまた、その山岳地帯にやってきた一人だった。コウキが着いた頃にはすでに日本中のあらゆる人間がその山岳地帯に集まってきていた。しかもその間に雨は降るわ、風は吹くわ、台風は来るわでみんな泥まみれになりながらの捜索だった。その頃には一万円札も泥をかぶったり、風に吹かれて川に流れたりして、見つけるのは困難を極めていた。
そんな風にして前代未聞のロボットハイジャック事件は数週間経過していった。そんなある日、コウキはユキカと出会ったのだった。
2005年ブログ投稿未完作品 著/Kenji Aso