スイト君 ロボット スイト君の儚い夢

ロボットスイト君は、世界で始めて温もりを感じられるロボットとして、世界中から注目されていました。特に日本では大人気でした。テレビでもちょくちょく報道され、街にスイト君が来ようものなら、すぐに人だかりができるような人気でした。しかし人々から注目を集めていた温もりを感じられるロボットといっても、スイト君の体内に温度計が設置してあるだけであり、人の肌に触れても数分触っていないと人の温かさが判断できませんでした。そして数分経つと「アナタハ、アタタカイ人です。トモダチニ、ナッテクダサイ」と流ちょうに言って、回りの人々を驚かせるのだった。発言する言葉はいくつもインプットされていて、最後に必ず「トモダチニ、ナッテクダサイ」で終わるのだった。

そのスイト君の人気に目を付けたのが株式会社ヨセヨだった。株式会社ヨセヨは、スイト君を開発する研究所に資料を請求し、どこまでの能力があるのか調べていた。その中に乗り物なども操縦できるという内容が書かれていたのだった。そこで株式会社ヨセヨは、スイト君に収益の運搬を頼んだのでした。スイト君を使うなら世界中をあっと驚かせたい。そんなことをヨセヨの社長は考えていました。

そしてその当日、マスコミ各社や大勢の見守る人々が飛行場に詰めかけて、スイト君出発の記念式典が行われました。輸送機に詰め込まれた株式会社ヨセヨの収益3000億、その中にはヨセヨの全社員の給料とこれからの運営資金などが含まれていたため、もっとも気がきじゃなかったのはなんと言っても、ヨセヨの社長や重役達でした。これもヨセヨのためだと言って社員を説得し、車で運べば1時間ほどで到着できるものを、飛行機で2時間かかるぐらいの所まで出発地点を遠くに伸ばしたヨセヨの社長。スイト君を見る目もただならぬものがあったようです。

マスコミや他の人達はお祭り騒ぎのように、スイト君が操縦席につけばついたで騒ぎ、カメラを見たら見たで騒ぎ、「見てください、スイト君がこちらをみて手を振っているようにみえます」「いや、笑っているのでしょうか?」などと騒ぎ立てていました。

「スイトくーん、こっち見てぇ」「スイトくーん」

スイト君にしてみれば、機械的に動いているだけで、手を振っているわけでも笑っているわけでもありませんでした。ただ3000億円という数字がやたらスイト君のコンピュータ内でぐるぐる回っていたようでした。

操縦席内ではスイト君がハンドルなどに触りながら「アナタ、ツメタイ、トモダチニ、ナレナイ」と繰り返し言っていたことだけはいうまでもありません。そしていよいよ滑走路から飛びだつときが来ました。

3000億円を詰め込んだ貨物輸送機はスイト君の手で見事空へと飛びだって行ったのでした。順調に目的地に向かい、空を飛んでいたスイト君のコンピュータ内で異変が起きたのは、それから1時間経過したあとのことでした。スイト君はその間中もずっと「アナタ、ツメタイ、トモダチニ、ナレナイ」と繰り返していました。

目的地である株式会社ヨセヨの本社へ車で向かっていた社長や重役達はそんなこと知るよしもありませんでした。そしてついにスイト君の発する言葉が「ミンナ、ツメタイ、トモダチホシイ」に切り替わってしまいました。

「トモダチ、ツクル」

そして「イモウト、ホシイ」にさらに変わったとき、スイト君の行き先は変わったのでした。

3000億円で自分の仲間や妹を作ってもらおうする思いが芽生えてしまったのでした。どこへ向かおうとしていたのかは分かりませんでした。しかしその夢は株式会社ヨセヨの社長がノイローゼ気味に押した緊急爆破ボタンによって、儚く散ってしまいました。

2005年ブログ投稿作品 著/Kenji Aso

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