『優しい魂』シリーズ5ページ
『優しい魂』(不定期に掲載)
著者/Kenji Aso 2012年12月からのブログ投稿作品
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扉が閉ざされたユキの世界の中で、優しいボクは羽根を伸ばしていた。
劇場で物語を見たり、草原に寝っころがって、空に浮かんでくるものを眺めたり、キミの小言を聞いていたり。
しかしキミは、心を閉ざしたまま、よくどこかに出かけているらしく、優しいボクがキミに会いに行っても、居ないことが多いのだ。
そんなこともあり、優しいボクがユキの建物を出る時には、満たされない思いをいつも言伝てのようにして、壁に貼り付けておくのである。
優しいボクは、キミには自分の姿が見えていないことを知っている。
実際には、優しいボクの言伝てもキミには見えていない。
ユキという娘は、俺という男のようにおかしな分裂の仕方をしていないのだ。
優しいボクは、ユキがおかしいと思っているが、実際には俺という男がおかしいのである。
それでも、優しいボクがユキというキミを思う気持ちだけは本物なのである。
優しいボクは、ある時からこの世界で生きる決心をしていた。
俺という男から独立するつもりでいたのだ。
ユキの世界の中に、自分の住まいを作ろうとしていることからも、それは分かった。
ちょうどユキの可愛らしい建物の隣に、自分の城を築くつもりでいたのだ。
それを見ていた占い師のおばさんが、「マズイ」と思わないわけがなかった。
占い師のおばさんは、優しいボクをユキの世界から追い出すために、水晶玉の前で色々と策を巡らしていたのだ。
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ユキの世界の中で、身勝手な振る舞いを続けている優しいボクを眺めながら、占い師のおばさんは考えていた。
「これじゃ、あのお嬢ちゃんの心を開かなければ、中にも入れないし、あのバカだって出てこれないじゃないか!」
「しかしだよ、扉が開いた所で、あのバカは出てくるのかね?居座ろうとしちゃってんだからさ。」
そんなところへ、ユキがまたいつものように店の中に入ってきたのである。
「占いのおばさん、今日はスタンダードのコースで。」
と言いながら、ユキは財布からお金を取り出した。
「お嬢ちゃん、最近、調子はどうだい?気分悪くなってないかい?」
と占い師のおばさんはユキに尋ねてみた。
「最近は…なんかよく分からないけど、心の中がスゴく温かい感じ。」
「あの人のこと忘れようとしてるのに、何か温かいものに包まれてるような気持ちになるのよ。」
「それに、なんかいつもより心強くなってる。」
と、ユキはにこやかに答えるのである。
「そうかい、そうかい。それは意外…じゃなくて良かったねぇ。」
占い師のおばさんは言った。
「それだったら、もう忘れるの止めたらどうだい?もっと心を自由にしてさ。」
「そのダメな男ともう一度、向き合ってみるなんてのは?」
占い師のおばさんは、ユキの世界の扉を開ける算段に入ったのである。
「ん~、だけど今の気持ちなら、違う人を心から好きになれそうな気がするの。」
「回りにいるのかい?心から好きになれそうな男は?」
「ん~まだそれといっていないんだけど、そんな気がするだけ。」
「そうかい、だけどそりゃ時間かかりそうだねぇ…」
占い師のおばさんは、ユキの話を聞きながら、優しいボクの未来とそれを失った俺の未来が浮かんできてしまった。
明らかに非常事態であるという認識を、再び占い師のおばさんは持つことになったのだ。
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平和そのものに見えたユキの世界の中で、優しいボクが唯一警戒していたことがあった。
それは時々、建物などの影で揺れ動いていた魔物に対してである。
優しいボクは、その魔物みたいなものに襲われはしないかと、時々心配になっていた。
その魔物が、日に日に活動的になっているようにも見えていたからだ。
~この魔物というのは、ユキが占い師のおばさんから時々購入していた、呪いつきの現物から派生してきていたものである。~
そんなこともあり、優しいボクもいつしか、鎧をまとい、剣を携えながら、過ごすようになっていたのだ。
「来るなら来てみろ!」
時々優しいボクは、自分の城を築きながら、あてもなく叫ぶのである。
優しいボクはユキの世界の中で、次第に戦士になり始めていた。
魔物達は、優しいボクという異物を、この世界から取り除きたいという使命感をもっていたのだが、優しいボクからしてみれば、キミを魔物達から守らなければならないという使命感を持っていたのだ。
滅茶苦茶な対立である。
最近、ユキが自分の心を強く感じているのも、優しいボクのそういった思いからきていた。
しかしユキは、容赦なく優しいボクの回りに魔物を送り込んでくるのである。
何も知らないまま、無慈悲なまでに。
それにともなって、優しいボクは強くなってきていた。
ユキの世界の中心にある可愛らしい建物の隣に、優しいボクが小さな城を完成させた時には、優しいボクは、すでにたくましい戦士になっていたのである。
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優しいボクが居なくなってからの俺の生活は散々だった。
ある時は、部屋の中で全身けいれんでも引き起きているのではないか?というぐらい、もがいていたこともあった。
愛する者を失ったぐらいに、優しさを失ってしまった俺は、どうしようもない人間になっていたのだ。
そんな状況の中、アイは自分の世界の中で、俺という男を見守っていた。
見守っていたというよりも、優しいボクがいなくなってしまったことに対して、心配していたのだ。
アイは優しいボクも俺も含めた一人の男を愛していた。
アイは弁当屋で働いている娘で、俺は時々そこで弁当を買っては、軽い話をしていたのである。
彼女は最近の態度の悪い俺の様子を知っている。
今にいたっては、俺の世界には近づけないことも分かっている。
そして何より優しいボクが、ユキの世界の中から出てこれないことも、噂で知っているのだ。
アイという娘は、次元の違う世界の言葉や姿も見聞きできる人である。 魂が分裂しているわけではなく、一つの魂として器用に活動しているのだ。
そのアイの世界の中がどんな世界かと言えば、入口から中心の教会らしき建物まで、一直線にレッドカーペットが敷かれてあり、遠くから見れば、どう見ても結婚式場そのもののような世界なのである。
その世界の中心にある、教会らしき建物から鐘の音がなると、いつもハト達が飛び立つような世界である。
そして、時々アイはウェディングドレスを着ては、真っ白なベンチに、物思いに座っていたりするのだ。
アイの世界とは、そういう世界である。
そしてアイは、今日もその世界の中で、優しいボクのことや俺という男のことを心配している。
俺はといえば部屋の中で、全身けいれんを起こしてまともに立てないのではあるのだが。
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ユキの世界の中で、優しいボクが自らの砦を築いている間、占い師のおばさんが手をこまねいていたわけではなかった。
ユキの世界の扉を開けることに、成功していた時間もあったのだ。
しかし、ユキの世界の中は、占い師のおばさんが思っていたよりも、あきらめの呪いの効果が強く働いていて、そう簡単に逆の呪いは通用しなかったのである。
それでも、好きな相手に心を開く呪いのブレスレットや、呪いのお香などで、なんとかユキの扉を開ける事に成功していたのだ。
その最中、ユキの個室にあらゆる煙が立ち込めていたことは確かである。
そんなこともあってか、ユキは途中意識を失っていたようだった。
反強制的に扉を開けようとしたために、仕方がなかったのだ。
ユキの扉が開いてからの数時間は激動だった。
それはあの手この手を使って、優しいボクをユキの世界から出させようと、占い師のおばさんが躍起になっていたためだった。
もちろん、ユキの世界の中にいる魔物も一役買ってはいたのだが、優しいボクは、逃げようともせず魔物と戦おうとしてしまうのである。
それならと、占い師のおばさんは、今度は魅惑の美女軍団をユキの世界に送り込み、優しいボクを誘惑しにかかったのだ。
魅惑の美女軍団は、優しいボクに近づいては、少しずつ扉の方に向かっていった。
「あなたぁ~こっちに来てぇ~。これはどぅお?」
と言って、寝そべったり横になったりしながら、胸や足を見せつけるのである。
優しいボクもそれには適わなかった。
美女達の努力の甲斐もあり、開いた扉の手前まで、優しいボクを連れて来ることができた。
しかし、あと一歩の所でダメだった。優しいボクは途中で我に返ったかのように、
「いけない、いけない。」と言って、
すたすたと自分が築いていた砦の方に帰っていってしまったのだ。
ユキの世界の扉が開いている間、優しいボクはキミの声を感じ取っていたのだが、それどころでなかったのだ。
それにここに居れば、キミに会えるし、キミの声も聞きたい時に聞けるし、 わざわざあんな暗闇の世界に戻る必要はないとも考えていたようだ。
そしていつしか、ユキの世界の扉はまた閉じられてしまったのである。
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砦に戻ってからも、優しいボクは、ユキの世界の中で魔物達と戦っていた。
そんなある時、一人の女子が、優しいボクの小さな砦に近づいてきたのだ。
それはアイだった。
アイは、ユキの世界の扉が開いていた数時間の間に、入り込んで来ていたのだ。
優しいボクは、その見覚えのある顔に、「あれ?」と思い、砦の上からアイに話かけた。
「キミってボクの世界によく来てた娘だよね?
どうしたの?
そんなところにいたら危ないよ。」
するとアイは、言った。
「もう帰ろう?」
唐突なアイの問いかけに、優しいボクは答えた。
「どうして?
ボクには守らなくちゃいけない人がいるから。」
アイは、戻ろうとしない優しいボクを説得し続けた。
「フミ君が大変なことになってるの!!
あなたが、フミ君の魂の中に戻らないと、フミ君が死んじゃうよ。」
「あなたは、フミ君の心から分裂してしまってるの。あなたはフミ君の心の一部なのよ!」
優しいボクは、そのことをなんとなく分かっていたが、頷かなかった。
「キミは誰なの?」
「私はアイ。私が働いている弁当屋に、あなたがよく買いに来てくれるんだけど…知らないかぁ。
私には関心がないのね…
でもいいから、ここから出よう?
私は、あなたもフミ君のことも助けたいの。」
優しいボクは、アイの気持ちがよく分かったが、帰りたくないようだった。
そして優しいボクは扉の方を見て言った。
「だけど、帰るって、どうやって帰るの?
扉、閉まってるよ。」
アイが扉の方を振り返って見ると、確かに閉まっているのだ。
アイは思った。
「えぇ~私どうすればいいの?」と。
そしてアイは、優しいボクに、助けを求めて叫んだのだ。
「ねぇ、私、どうしよう?」
そんな幼気な娘の助けに、優しいボクは勇ましく剣を天にかざして、こう言うのだ。
「ボクと一緒に、ここで悪魔と戦おう!!」
「ボクがキミのことも守ってあげる。そんな所にいないで、ここまで上がってきなよ。」
アイは、優しいボクを助けに来たにも関わらず、結局、ユキが送り込んでくる魔物達と戦うはめになってしまったのだ。
しかし優しいボクは、仲間が増えて良かったと、内心ホッとしていたようだった。
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実はアイもまた、ユキの通う占い喫茶によく来ていたのだ。
ユキほど呪いの品は買ってはいないのだが、一つの癒しの場所として利用していたのだ。
アイがユキの世界に入り込めたのは、占い師のおばさんが、ユキの世界の扉を半強制的に開けようとしていた時に、アイがちょうどそこに居合わせていたからだった。
ユキの回りで焚かれていたあらゆる呪いの煙が、アイの個室にまで届いてきたことによって、アイの魂は優しいボクのいる所へと引き寄せられていたのだ。
しかしアイが目を覚ました時には、すでにユキの世界の扉は閉まっていた。
~それはどういうことかと言うと、
例えアイが、普段の生活していても、アイの魂はユキの世界の中にあり、その中の優しいボクと一緒にいるということである。
アイは自分の魂が奪われた状態になってしまったのだ。
それは、ユキにも奪われ、優しいボクにも奪われているということになる。~
それからしばらくして、アイはユキの世界の中で思った。
「このユキの世界が開かなければ、私の魂はずっとフミ君の優しさに触れていることができる。
そして私はこの体で、優しさをなくして苦しんでいるフミ君を助けてあげよう。」と。
アイが夢うつつの中、占い喫茶を出ようとすると、アイは占い師のおばさんに引き止められた。
「あんた、あのバカをどうする気だい?」
夢うつつの中、ぼんやりと聞こえてくる占い師のおばさんの声にアイは答えた。
「どうもしません。私はあの人を助けたいだけだから。」
占い師のおばさんは言った。
「あんた、覚悟あるのかい?
だけどねぇ、覚悟がなくても…
もしよかったら、
あのバカをあの娘の世界から出してやってくれないかねぇ?」
そんな占い師の切実な声に、ユキもまたぼんやりと夢の中で受け答えをしているかのようにして返した。
「でもおばさん、あの人、扉が開いてても出ようとしないんですよ!」
「私はこれから、あの人の家に行って、様子見てこようと思ってます。」
「そうかい、そうかい。分かったよ。それにしてもどうしようもない男だねぇ。
呆れちゃうよ、まったく。」
占い師のおばさんがそう言うと、アイはそれ以上何も言わずに店をあとにした。
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アイが道路脇から、俺の住むアパートを覗いてみると、俺の部屋の窓ガラスは割れていた。
この時、彼女は自分の店の弁当を持って、俺の部屋を訪れようとしていたのだ。
アイは俺の部屋の呼び鈴を鳴らしながら、「すいませーん」とフミを呼んでいた。
部屋のドアを開けた俺は、死にそうな顔をしていた。そしてアイの顔を見ながら「なに?」と言った。
するとアイは適当な理由をつけて、「これ、良かったら。」と弁当を俺に差し出していた。
俺は無愛想に弁当を受けとると「じゃぁ」と言ってドアを閉めてしまった。
呆気にとられたアイは、もう一度「ちょっといいですか?」とドア越しに俺を呼んでいた。
再びドアを開けた俺は、「なに?」と言いながらも、どこか苛立っているようだった。
アイはそんな俺の様子を見て、危険を感じたのかもしれない。
「あの、お箸ついてました?」と話題を切り換えたかのように言っていた。
しかし俺は無言のまま、またドアを閉めてしまった。
そして、これ以上俺とはまともな話が出来ないと思ったアイは、その場を離れることにしたのだ。
「やっぱりダメかぁ」
アイはそう思った。
「私の心は、あの人の優しさのそばにいるのに。
あの優しさのないフミ君は、ただの闇の物体でしかないのかぁ?」
「私はフミ君を助けられるのかなぁ?」
アイは自信をなくしていたようだった。
アイの魂は今も、ユキの世界の中で優しいボクと一緒にいる。
そして、アイは魔物達と戦う振りをしている。
その魔物達の目的が何なのかを、アイはおおよそ知っていたからだ。
アイの魂は、ここで戦っている優しいボクに対しても、襲ってこようとする魔物達に対しても、冷めて見ている所があった。
ただアイの魂は、この優しいボクという魂を魔物達から守ろうとしていたのだ。
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アイの魂は現在、24時間、ユキの世界にいて、優しいボクと共に砦や城の中で過ごしている。
ただアイの場合は、自分の意識をその次元に持っていかなければ、意識して動けなく、アイが意識していない時のアイの魂は、無意識上で動いているのだ。
それゆえに、意識を自分の魂に戻した時、辺りの状況が変わっていたなんてことは、よくあることなのだ。
アイが弁当を持ってフミに会いに行った後、近くのマクドナルドの店内で、再び優しいボクのいる世界へ意識を戻した時に、優しいボクの言ってることがよく分からなかったのはそのためである。
「アイちゃん、さっきはスゴかったね!」
それは、アイが自分の意識を魂に戻した時に、優しいボクからいきなり言われた言葉だった。
「私、なんかスゴいことした?」
とアイは思った。
そして優しいボクは続けて言うのだ。
「あの魔物も驚いてたよ。アイちゃんの投げてた石が、あんなに見事に魔物の顔面に当たるんだもん。」
どうやら、アイは魔物に向かってやたらと石を投げていたようだった。
それに、アイ自身もそれを聞けば、頷くことしかできないのだ。
無意識上の自分の魂の言動に対しては、責任が持てないのである。
そしてアイはまた、自分が無意識の間に、下手なことをしなければいいなとも思っていた。
それから優しいボクは、アイの肩を叩いて、こう言うのだ。
「アイちゃんの鎧、もうボロボロだから、下に行って新しい鎧と交換してくれば?」
どうやら、アイは意識上では冷めているが、無意識上では、かなり熱く魔物と戦っていたらしい。
その証拠が鎧に刻まれているのである。
何のことを言われているのか分からなかったアイは、自分の鎧の傷跡を見て頷くしかなかったのである。
そして、下に降りていくアイに優しいボクは言うのである。
「そんなに無理しなくていいよ。ボクがアイちゃんのことも守るから。」
と。
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アイがフミの様子を見に、占い喫茶を出た頃、ユキは個室から出てきた。
そして、ユキは占い師のおばさんに苦情を言うのであった。
「占いのおばさん!全然ダメ。あのお香もこのブレスレットも。あの人の夢ばっかり見ちゃうの!このブレスレット、違うの交換してもらいたいんだけど、いい?」
占い師のおばさんは、少し落胆した表情を浮かべながら言った。
「そんなに効き目なかったかい?おっかしいねぇ?まぁいいさ。どれでも好きなものと交換おしよ。
ここら辺のものが、誰かを忘れられる呪いの入ったものだからねぇ。」
ユキはガラスケースの中にある品物を見回し、
「これ、カワイィ!」
と、あるドクロのネックレスを指差した。
占い師のおばさんは、そのネックレスを見て言った。
「お嬢ちゃん、それは止めた方がいいよ。それは忘れるというよりも、相手を呪う力の方が強いものだからさ。」
ユキは占い師のおばさんの話を少し信じなくなっていたこともあり、
「それぐらい強いものじゃなきゃ!」
と言って、一歩も譲らなくなってしまったのだ。
そんなユキを前に渋々、占い師のおばさんは、ドクロのネックレスと、心を開く呪いのブレスレットを交換したのだった。
「こりゃ大変なことになるねぇ。」
占い師のおばさんは、ユキが帰った後、水晶玉の前でそうぼやいていた。
アイが魂に戻った時、アイの鎧が傷だらけになっていたのも、そういうことがあったからだった。
ユキの世界もフミの世界も、一段と険しさを増してきていたのだ。
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占い師のおばさんは水晶玉の前でぼやいていた。
「おばさん、おばさんって、あの娘達も、この作者も、いったいなんだい!ワタシは占いのお姉さんだよ。
占いのお姉さんと言ってくれればいいのにねぇ。」
占い師のお姉さんは、おばさんと言われることがあまり好きではないらしい。
そして、また水晶玉の前でぼやくのだ。
「ワタシが悪いんじゃないからねぇ。
あの子達が悪いんだからねぇ。
こっちだって商売でメシ食ってんだからさぁ。
ワタシんとこは、人を忘れるのと、人を呪うのが専門だからねぇ。
誰かを振り向かせるのとか、心を開かせるのとか、あんまり得意じゃないんだよ。
ワタシの先生があんまりそっちの方は教えてくれなかったからねぇ。
あの先生もあの世にいっちまったけど、もっと聞いときゃよかったねぇ。
人を幸せにする呪いとか…
知ってたのかねぇ?あの人…」