『優しい魂』(不定期に掲載)

著者/Kenji Aso 2012年12月からのブログ投稿作品

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俺は今日もパチンコで負けた。

わずか数時間足らずで、俺は全財産の3分の2を失ったのだ。

死にたい気分である。

もし勝ったら風俗に行って、この世の矛盾を出来れば解消してやろうと考えていたのだ。

それも叶うことなく、俺は残った金で安いウィスキーを買い、昼間から酔いに酔っているのである。

俺という人間は、世間から見れば、ホントにダメな男なのだ。

キミが俺に興味を持っていること事態、誰一人想像しがたい事柄なのだ。

にも関わらず、優しいボクだけはキミに話かけに飛んでいく。

「大丈夫だよ。ボクはキミが好きだよ。」

実際には全然大丈夫ではないのだが、優しいボクだけはどこまでもキミに優しいのだ。


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とにかく俺は救いようのない男だった。

キミが俺に興味を持ったのも、その救いようのなさからだった。

俺を守りたいという母性が、キミの心のどこかで働いたことによって、キミは優しいボクの近くで姿を見せていたのだ。

もちろん俺はそんなことは何も知らない。

優しいボクは、俺が救いようのない男だということを知らない。

ただキミの不安定な気持ちを感じ取っては、闇の中から飛び出していくだけなのだ。

最近、キミが相手にしている男の不甲斐なさぶりに、優しいボクの飛ぶ回数が増えていることはここだけの話である。

それでもキミは俺の闇の中にいる優しいボクの思いを知らない。

さっき飛び出して行った優しいボクは、今キミの不安のそばで、話しかけている。

「大丈夫。キミは綺麗だよ!それにキミは誰よりも可愛い!それにそれにスタイルも最高~!!」

ただ誉めちぎっているだけのようにも聞こえるのだが。


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相変わらず、俺という男の世界の周辺では、多くの人の魂が行き交っている。

この救いようのない男が人の魂を引き寄せている、この現象はいったいなんなのか?

確かに優しいボクも人気がある。

しかし中には、優しいボクの言葉が聞こえない人達も意外と多くいるのだ。

はたしてキミはそこにいて楽しいのだろうか?

救いようのない、だいぶ人生が終わっているような男の世界周辺にいて。

優しいボクは、俺の心の闇の中で、キミの姿をさっきから探している。

自分の気持ちはキミに通じていると思い込みながら、

「まだ自信がつかないのかなぁ~?」

と呟いている。

優しいボクというのは、実は勘違いもしやすい魂なのだ。

それでも優しいボクには、愛情と優しさしかない。

それが例え勘違いであったとしても、優しいボクはキミを助けることしか考えていないのだ。

"キミ"というガラスの靴が飾られている世界の所々で、すでに争いも起きている。

救いようのない俺と

勘違いだらけの優しいボクだけでは収拾がつかない事態なのだ。

一刻も早くキミが来てくれることを願っているのだが。

キミがあの靴を履き、

この世界に居てくれる事を。


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優しいボクはようやくキミを見つけ、どこか安心したようだった。

人の魂がこう集まるとなかなかキミを見つけにくくなるのだ。

それから優しいボクは、辺りを見回し、人が集まっている場所に目をやった。 そこでは、女性グループが歌いながら踊っていたのだ。

もしかしたら救いようのない俺が、KARA(※1)のPVを見ていたからなのかもしれない。

優しいボクはそのグループに近づいていった。

優しいボクは、その歌と踊りにすっかり魅了され、いつの間にか高揚してしまったのだ。

「やばい、キミを見てるの忘れた!」

優しいボクがそう思った時には、やはりキミはすでにいなかった。

また飛んでいくつもりなのか?

案の定、優しいボクは飛び立とうとしていた、

が、飛べなかったのだ。

誰かが優しいボクの足を掴んでいたのだ。

「あの、その手を離して。これから大事な人の所に行かなくちゃならないんだ。」

「イヤ。」

誰かは知らないが、それはある女子だった。

「イヤ。行かせたくない。」

「まいったなぁ。

分かった、それじゃここにいるから、その手を離して。」

「約束だよ。」

ある女子は言った。

結局、その日、優しいボクはキミのそばにいくことをあきらめることにした。


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優しいボクは、俺の心の闇の中で考えていた。

「なんであの子は、あれほどまでにボクを止めたんだろう?」

「なんでボクがキミに所に飛んでいくことを事前に分かったのだろう?」

それもそのはずだった。

優しいボクの行動は誰から見ても分かりやすいのだ。

それに優しいボクの一瞬の動きを見逃していない人達も回りには沢山いたし、優しいボクの言葉が聞こえる人達は特に、その言動に注意を払っていたのだ。

「もしかしてあの子はボクが飛んでいく行き先を知っていたのかな??」

それ以来優しいボクは、あまり外の広場には出ていかなくなってしまった。

回りから見張られているような気がしたのだ。

優しいボクのその勘は当たっていた。

実際に一部の人達から監視されていたのである。

それはまるで、優しいボクをキミの所に行かせないようにしているみたいだった。

それでも優しいボクは、俺の心の闇から直で、キミの心までは事あるごとに通っているのである。


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キミは俺という男の世界周辺に来ては、

「わたしを見て!」

とよく願っていた。

もちろん救いようのない俺はそんな願いなど知るはずもなく、闇の中へとさらに落ちていくのだった。

「だからぁ!ボクがいつも見てるでしょ!」

優しいボクがキミの願いにそう答え続けていることは事実なのだが、

なにしろ、キミには優しいボクの声が聞こえていない。

「どうして?

あなたはわたしに興味がないの?」

ときどきキミはそう言って怒って帰ってしまうこともあるのだが、

決まって、そのあとを追いかけていくのは優しいボクなのである。

キミの気分は日によってよく変わるらしく、

こないだ言ってたこととまるで違うことを言っているなんてことはしょっちゅうなのだ。

そんな気分に振り回されている優しいボクも少し気の毒ではあるのだが、

仕方がない。

優しいボクはキミを愛しているのだから。

優しいボクはまるでキミの僕(しもべ)のように、動き回っているのだ。

しかし端から見れば、その努力はまったく報われていない。

報われたと勘違いできることだけが、優しいボクの唯一の救いなのだ。


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この俺という男の世界を全体から見てみれば分かるのだが、だいぶ壊れた世界なのである。

壊れているというよりも、壊されていると言った方が正解かもしれない。

あそこで大きなハンマーを持って、必死で何かを壊している女を見てみても分かる。

その回りには、その女の言動を止めに入っている人達もいるのだが、実は

そんな光景がこの世界の所々で見かけられるのだ。

そのすべてがこの男と、この男に関わった女達の色恋沙汰を原因とする、その延長線上にある破壊活動なのである。

その中にはなぜか男達もいる。

その回りでは女達が止めにかかっていたりもしているのだ。

すでにこの救いようのない男の世界はボロボロである。

そのボロボロさが、味を出しているのか。

何も知らない少女達は、それが当たり前であるかのように、壊れたモノの中に隠れたり、壊れたモノを投げたりして、意外と楽しんでいるのである。

優しいボクは、その破壊活動をしている者達に対しては、あまり関心がないようだ。

ただキミのそばに行くときに、誰かに足をひっぱられないように気を付けてはいるらしい。

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俺の世界内の空だけは、今夜も満天の星がキラめいていた。

優しいボクは、誰もが元の気持ちに戻っていったあたりの、この時間帯の静寂さが好きだった。

その頃になると、優しいボクも、俺の心の闇の中から出てきて、がれきなどの上に腰かけながら、ロマンチックに星空を眺めていたりするのだ。

もちろんそんな時でも、キミのことを感じ取っては、あっちこっちと往復しているのだ。

「もっと気楽に来ればいいのに。」

優しいボクはキミに話かけている。

優しいボクは、キミが重々しく動いていることを知っているのだ。

まるでピラミッドを築く時の石を一人で引っ張って来ては、また戻しに帰っているようにさえ見えていたのだ。

魂の世界では、実際にそれは不可能ではなかった。

優しいボクも負けずに、

トナカイ付きのサンタクロースをプレゼントしに行ったこともあるのだ。

サンタクロースのおじさんも確かにあの時、困っていた。

優しいボクはあの時、

サンタさんとの星空の旅をキミにプレゼントしたかったのだ。

しかし、サンタのおじさんには「時間がないのだよ」と言われ、優しいボクは結局、キミを起こせなかったのだ。

あれ以来、優しいボクはサンタさんとは連絡が取れていない。

そんなことを思い出しながら、優しいボクは帰路につくのである。


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俺は今日も無職である。

どういうわけか、働く気がまったくないのである。

俺の心の闇の中で過ごしている優しいボクも、最近は視界が悪くなったことに気がついている。

少し前までは、闇の中でも自分が手にとるモノまでは見えるぐらいの闇の暗さだったのだが、この頃に至っては、時々何も見えなくなることがあるのだ。

まったく先が見えないために、優しいボクは出入口を間違え、何かにぶつかったらしく、頭に包帯を巻いて、キミに会いに行くこともあるぐらいなのだ。

俺という男の心の闇が、深まっている証拠である。

傷だらけの優しいボクは、今日もキミのそばで、

「大丈夫だよ。」

と声をかけている。

そう言いながら、キミの前で微笑んだり、笑ったりしている。

何が大丈夫なのかは、もはや当人に聞いてみなければ分からない話なのだが、優しいボクというのは切ない魂なのだ。

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